「お前、最近仕事は?貰えてんのか、全然テレビ映ってないじゃないか」


「地方の音楽番組には出た事あるよ」


「地方って言ったって、それじゃなかなか覚えて貰えないだろう」


兄貴はこういう所はシビアである。


「お前、一本番組持たないか?」


「いいよ、コネは嫌だ」


「そう言うな。知り合いのラジオのプロデューサーがな、お前の話をしたら使ってみてもいいって言うから頼んでおいたんだよ」


コネは嫌だった。
父も母も政界の人間だ。


俺がその気になれば下ずみなしですぐにテレビに出て音楽を披露出来ただろう。

コネミュージシャンは何人か知ってる。
でもそういう奴らは一瞬で消えていく。
俺はそんなすぐに消えてしまう一発屋にはなりたくなかった。

薫ちゃんにだってスタートが遅くても、時間がかかってもちゃんとやれる事を見せてあげたかった。


「お前1人でここまで来たと思ってんのか?だいいちコネも何もなく入ったお前に番組出演の依頼がくる訳ないだろう」

「兄貴には関係ないし余計な事しないで」


「じゃあ言おう。最近、地方番組でも出演増えたな。ライブもいい所でやれてたな。あれは俺や父さんが手回しした結果だ」


「はぁ?何なんだよそれ」


「何だじゃない。俺はお前の将来を心配してるんだ。お前の望み通りにCD売上までは干渉しないようにしたがな」



兄貴はつとめて冷静に言う。
どんな時でも冷静沈着な兄貴をいつも尊敬していた。
だけど今はその態度さえも憎い。

悔しさと今まで積み重なっていった物が崩れ落ちる感触に悲しさも感じていた。
でも、こんな時涙は出ない。