電話の呼び出し音がただ虚しく鳴り響く。



これで20数回目

薫ちゃんなら数回のコールで出るはず。仕事なら留守電になるはずだ。



薫ちゃん?何処にいるの。



誰と何してるの?








「ねぇ、電話…鳴ってる」


わざと薫ちゃんの弱い耳元で囁いてみた。

息をそっと吹きかけて。


薫ちゃんはピクリと可愛らしい反応をする。

それが俺のサド心をますますくすぐる。

「電話…出な…いと」


かすれるような声で一生懸命に携帯のある方へ手を伸ばしていた。

が、俺は容赦なくそれを取り上げる。


ディスプレイを見て相手を確認した。

ますます出させたくない相手だった。


「やっ、返して?」

お願いするような目ですがりつかれる。

「駄目。電話には出させない」


「どうして…」


「福ちゃんだろ?絶対駄目」




コイツらが心身共にとっくの昔から出来てるのは知ってる。
あえて口に出さなくても雰囲気で察した。


あの鈍い武蔵でさえ気が付く位なんだ。





ただでさえ人見知りな俺は武蔵以外、数人の芸人仲間しか話す奴がいなかった。
仲間っていったって四六時中ベタベタしてる訳じゃないし、普通の仲良し2人組ミュージシャンみたいに長く一緒にいる訳じゃない。だからあまり深い話はしなかった。


武蔵は武蔵で音合わせや仕事以外は1人行動が多い奴だ。
武蔵が俺に好意を寄せてくれていたのは何となくわかってはいた。

が、いまいち本気になれなかった。




薫ちゃん達は他の事務所からわざわざ移籍してきた。


事務所とは名ばかりのどうしてもミュージシャンという肩書きが欲しい奴の為の救済事務所だ。
仕事も末端の物ばかりらしい。