「ったくよぉー、こんなんで大丈夫なのかよ?しかも自分の持ち歌全然覚えてないみたいだしさぁ、また事務所ライブのオーディションも不合格になっちまうぞ。」


「やるっ!やります。だから怒んないでよぉ…」


武蔵は持っていたリモコンを仕方なくテーブルの上に置いて歌詞が書いてある紙をぶつぶつ読み出した。



俺と武蔵は性格も全く正反対どころか接点もない。
しかし、この短期間の間で俺達は急速に親しくなった。

いや、親しくしなければコイツとはやっていけない。

俺は元々人とあまり深く関わり合いを持たない人間かもしれない。
極端に人見知りではないが、積極的でもない。

勿論、自分にとって大事な人には深く関わるかもしれないが……。
今の世の中、皆そんなに人と深く関わらないだろう。

俺もその1人なだけである。


だが、武蔵は違う。 単純すぎる位に普段から人を信用して、人に気を使って、悪口なんて絶対に言わないタイプだ。
だから俺が心を閉ざしてしまえば、コイツはとことん駄目になる。


最初、コイツの練習に付き合ったのもお金の為ではあったのだが、打ち解けていく間に何となくコイツを応援したくなったのだ。

なんかね、最初のオーディションを見た時からそう思ったんだよね。


未だに大きな謎だけど。




ソロ歌手はある意味孤独だ。

バンドとかなら相談しあえる話も全て自分で解決していかなければならない。

誰も支えてやれない。


だから俺は時間の許す限りコイツにとことん付き合ってみた。
まずはどんな奴なのか知らないと話にならないからね。