「あはっ…ははッ! アハハハハッ!」
 何か重い蟠(わだかま)りがするりと肩から抜け落ち、ユイもまた屈託無く笑いました。


「ど、どうしたの?」
 周囲を囲む仲間達は理由が分からない突然の大きな笑い声に呆気に取られてしまいます。

「暑さでやられちゃったか、コイツ?」


いえ、ユイはただ嬉しかったのです。
 「あはははッ!」
 ユイを包んだ祝福をここに文面で著すのは非常にやっかいです。
 それはひどく直感的で神託的であるからです。
 もし、筆者による下らない類似表現を許されるならばその祝福とは……
 ある冒険家が極寒の冬の北極をさまよい、3ヶ月に渡る極夜を越え、今まさに絶命しようという時薄明かりの下、愛くるしい赤ちゃん白クマとその母親に出会う……
 という祝福に似ています。


 どんな永い夜にも朝が来、どんな惨たらしい大地にも慈愛がある…
 そんな祝福です。


「おい、藤間ぁ~!?」


 「あははは、ははは…フー。すみません、先輩。ただ、ただ嬉しくて…」


 「嬉しい!? ボールぶつけられたのが?」


 「はい…ただ嬉しくて」
 ユイは悟ったのでした。
 昨夜、突如として彼女の前に現れた“暗雲”が、決して『永遠』には続かず『全て』ではない事を。

 それらは、世界の一部なのです。

ちょうど零下50度の寒さと3ヶ月に及ぶ夜でさえもが、白クマ親子の歓喜の単なる“舞台装置”に過ぎないようにです。