ユイは朦朧としていたのではありません。むしろ、恐ろしいほどに脳ミソは働いていました。
 彼女の中で次々に種々の想いが生まれ、膨れ上がっていったのです。

 (夢…)
 (嫌な夢)
  
 (闇竜…)
 (“感情の入力”)
 
 (…美奈子さん)
 (あの人はいい人…)


 (あのフラッシュ…)
 (ママは言った“シャイニング”って…)

 (“女神のかんざし”…)
 (…ママ達は私に隠しごとをしてるんだ…)

 (隠しごとを…!!)

 ――――
 ―――
 ―…
 
 「藤間ぁぁ!」

 先輩の声がユイをグイッと現実へ引き戻します。

 「へ?」
 そんな気抜けのユイに先輩のスパイクショットが迫り……
 「ぐぇッ!!」
 側頭部に直撃しました。痛そうです……。

 ユイは蹲(うずくま)りました。
 「…効いたぁ……」
 
 紅白戦は中断され、部活の仲間がユイを囲みました。

 「大丈夫?」とか「何処見てんの!?」という、当たり前といえば当たり前の
言葉が浴びせられる中、不意に、場にそぐわない笑い声がユイの耳に聞えました。

 嘲弄など一切含まない春風のような笑い声です。


 ユイはチラリと笑い声のする方に視線を送ってみました。

 「あ…」
 それは笑顔の美幸さんでした。

 その微笑みは、優しく、心強く……。悶々とした今日を一瞬で追いやり、ユイに笑顔を分け与えるのでした。