「…なんだ、これ?」と首をひねったその女性は不意に、遠くから少女の泣き声が聞くのでした
 恥じらいも無い、絶叫に似た泣き声です。

 こんな奇怪なメールで泣きじゃくるとは変な娘だ、とその女性は思いました。

 その好奇心からか女性が視線を向けると、
 
 「『美幸』どうしたの? しっかり!」
 「大丈夫よ、もう安全だから!」
 
 と、その少女の友達が、彼女の肩を揺すっているのが見えました。

 
 そうです。
 その少女の名は、どうやら『美幸』というようです…。



 女性はもう一度、携帯の画面と少女を交互に見比べて
 「………」と、一瞬、沈思すると呟きました。
 「違うよ」
 少女の友達に言ったのです。

 その女性は、自身の涙腺が込み上げるのを感じました。
 分かんないけど、“これ”で泣いてるんだね……と。

 
 “これ”が、つまり同じ文面を映し出す10万の液晶画面が、その他の文明機器を排した真っ暗になった地上に灯っていました。


 ……そんな奇妙な沈黙の中で、
 「見て!」
 と初めに言ったのは誰だったでしょう。
 一人がそう叫ぶと、その波は瞬く間に10万の人々に広がります。

 「あ、マジだ! ほら、見ろよ!」
 1万本ぐらいの人差し指が、空に向かって指されました。
 
 「見て、空! 空!」
 
 「ほら、空が!」


 ―― 見て、空を……!