ユイは麻衣に抱かれ、二人を包む形で裕がその上から抱きしめていました。

 「ほら、ユイ。空が」
 裕はユイの即頭部にキスをしながら、囁きました。

 ―― 空?

 
 それは、美しい夜空でした。

 厚く張っていた雲はイグニスの灼熱が雨にしてしまいました。

 全天を黒く覆った雷竜の群れは恐ろしい夢だったかのように、すっかり姿を消していました。

 都会の空をくすませる有機スモッグは、光球の中で核融合のエネルギーに変換されてしまいました。


 ―― だから
 だから、それは美しい夜空でした。
 宇宙の果てまで見てとれるような、どこまでも透明な夜空だったのです。
 「きれい…」と、麻衣は息を飲みました。


  
 一方、そのころ、群集の中に居た美幸さんは奇跡を目撃しました。
 その満天の星々の光の一筋々々が、まるで倒れる人々の一人一人に降り注いで竜に囚われた貴き感情を開放すかのように、倒れていた若者達が次々に意識を取り戻したのです。