「ユイ……」
 と、少女の肩に手をかけたのは父で、背中を抱いたのは母でした。
 二人は息を弾ませていました。二人は美奈子を課長達に託して、我が娘のもとへ駆けて来たのでしょう。

 
 麻衣はユイを後ろから抱き締めます。背中から抱いたのは、そう、泣けるだけ泣けるよう、顔を覆わぬよう。

 そして麻衣もまた、ユイの背中に顔を埋めて泣いていました。

 たぶん、さきほどの事を、つまり少年が差し伸べられたユイの手を断った事を直感的に分かっていたのでしょう。
 その子供らしからぬ固辞が、麻衣には耐えられなかったのです。少年が負った傷の大きさがどうにも悲しみの琴線に触るのです。


 ユイだけじゃない。
 大人達だって少年を癒してやる事ができたはずだった、と。
 なぜ誰も気付いてやれなかったのか、と。
 「南くん、ごめんね。……許してね」
 麻衣は囁きました。まるで神々に懇願するように瞼を閉じました。


 「許すさ……」
 と、裕は言いました。
 同性として、麻衣やユイより確信を持って、裕は言いました。
 「許してくれるよ。許さないはずはない」
 
 裕は大声で泣き続けるユイの頭を撫でました。
 「だって、ユイ。 ほら、ユイ。見てごらん」
 そう言って、裕は空を指差します。