「うわぁぁあああん!!」
 
 ユイは泣きました。人、一人居ない大都会に少女の慟哭だけが、虚しく響きました。

 無垢なるその号泣に、この街はちゃんと咎を感じているのでしょうか。

 街から日々吐き出される不徳が少年の心を歪ませてしまった事を、この街はちゃんと分かっているのでしょうか。

 半裸になったアイドル達が商業的に「恋だ、愛だ」と、嘯(うそぶ)いて、芸術家を語る歌い手達の耳障りな楽曲が世界を包み……
 その街は、大人達の背徳と性欲が子供達を傷付けている事を分かっているのでしょうか。

 
 ユイは泣き続けました。

 ユイの背後には広告塔が立っています。そのポスターでは、社会的に美女と銘打たれた女性が煌びやかな背景を背負って、400%ぐらい笑っていました。
 
 ――しかし何の意味があるのでしょう。
 眼球ぎりぎりにまで引くアイラインや、竜の鉤爪を思わせる長いネイルに、いったい何の意味があるでしょう。
 何の意味があるというのでしょう。
 

 お金も、著名も、大きな瞳もいらない。
 新発売のマスカラも、ブランドのバッグも、大きなおっぱいもいらない。


 ……そうです、世界の“ほとんど”は何の意味もないのです。


 「うぁぁあああん!!」
 泣きじゃくるユイが望んだのはたった一つだけ…

 少女はただ ――
 ただ、もう一度 ――
 彼に出会うために、この世界に還ってきたのです。