けれど、彼女は走り続けました。

 ――何のために――?

 
 ……………
 …………
 ……

 「何よパジャマ見られたくらい!」
 小児病棟のプレイ・ルームで遊ぶ達也を見ながら、母娘はベンチに腰掛けています。麻衣はこの病院で勤務医として働いており、その休み時間を利用しての見舞なので白衣姿です。
 「だってぇ…」
 「その“先輩”って、どんな子なの?」
 「え?」ユイは頬を染めました。「どんなって…。あ、頭いいよ」
 「それだけ?」
 「スポーツもできる。男バレの部長なの」
 「ふぅん。見た目は?」
 「な、何ていうかな? ともかくパパよりはカッコいい」
 「ああ、じゃあ、アンタにゃ無理だ」
 「ヒドイ!」
 「だってパパはこの私が―――」 


 ……………
 …………
 ……

 ユイは意識するよりはやく、それを口にしていました。

 「ハァハァ…ッん…“センパイ”…!!」

 そう。ついに彼女はその言葉に辿り着いたのです。

 「“先輩”…、そうだ、“先輩”だ……!」


 どれほど走ったのか、いつしかすぐ目の前に赤い星が迫っていました。