そうだった――!

 私は何か大切なモノを“失った”のだ!

 いや“失おう”としているのだ!
 

 …しかし、思い出せたのはその事実だけ。
 「…それは……何?」
 一体それが“何だった”のか、そして“何である”のかをユイは思い出す事は出来なかったのです。
 
 今、まだ純粋不確定性の宇宙を旅するユイにとって、“過去と未来”は曖昧なものだったのでした。

 『失った』のは過去の事実であり、
 『失う』のは未来の事実でした。

 『土星』の言ったように、全ては自由なのです。自分次第なのです。それが生命と宇宙の約束……。
 宇宙の不確定性とは生命なのです。そうでなければ宇宙は、コンピュータ上のビリヤードのように、いつも同じ場所に同じ星を配置し、同じ未来(結末)に行き着くだけ。
 生命は大いなる宇宙に抱かれ、しかしその宇宙の未来を変える存在なのです。全てのエレメントを持つ宇宙にとって、自由のエレメントとは生命の事だったのです

 ……だから
 「行かなきゃ…!」
 と、ユイは立ち上がりました。
 
 ―― 誰のせいでもない…
 ―― わたし次第なんだ…!
 
 「大切なモノ…分からない。……けど」
 先ほどまでより格段に確固たる足取りで、走り出しました。
 「『2年』…取り戻すんだ」