“蒸留水”を飲んだのは、“理科の実験”のときでした。

 “友達”とふざけてて…
 「飲んでも平気?」って“先生”に…

 少女であった頃の記憶が、花火のナイアガラのようにユイに流れ込んできました。一つ一つの火花は13歳であった過去の記憶であり、13歳になった未来の記憶でもありました。

 「待って! 私、さっき“ママ”って言ったじゃん!?」

 「そうよ」
 『土星』は柔和でした。優しく口数が少ない、受身的な性格を現した、その「そうよ」の3音は……


 「“美奈子”さん!?」
 ユイは手を伸ばしました。
 「待って。分かりかけてるんだよ! 待ってよ!」

 けれど、『土星』は止まる事を許されてはいませんでした。いえ、止まる事はできます。物質ですら、この宇宙ではどこまでも自由なのでから。
 「止まれないのよ。私(星)に自由はない。自由なのはアナタ(生命)」

 でももし惑星である彼女がケプラーの運動法則を無視すれば、またユイと宇宙は不確定性のスープに後戻りする事になるのです。
 料理はあと少しなのです。
 

 「“自由”なのはアナタなの」