「…誰ぁれ? “ママ”?」
 ユイが眠たそうに瞳を開くと、その星が向こうからやって来るのが見えました。
 それはユイも知っている星。
 
 それは『土星』でした。


 ユイが眠っていたこの静かな帯状の真空は、『土星』の通り道だったのです。

 「起きないと。急がないと」
 優しい声色でした。『土星』はその神秘的な外見に反し、とても優しく温かく言いました。

 「なんかさ、アナタ達の声、聞いた事あるみたい」

 「そう?」
 『土星』は事も無げに相槌すると、ユイの涙を自身の輪っかへと吸収しました。そしてその代わりに――
 「お食べ」
 と、手ごろな氷塊をユイまで流してきました。

 「ありがとう」
 喉を涸らしたユイは氷を齧ります。純粋すぎる水で、あまり美味しくはありませんでした。
 
 「マズイ」
 ユイは悪戯っぽく笑いました。
 「マズイ。これは“蒸留水”と同じで……」と、言いかけたとき、ユイの中で一閃の雷光が走りました。
 
 「…ッ!! え!? なに? “理科の実験”ってなに…?」