ユイは再び進み始めます。

 歩いては転び、転んでは這って、這っては歩き出し……と、ともかく今できる限りの全速で進んでいきました。

 天王星のぶっきら棒はユイの緊迫を解きほぐすものでしたが、それでも彼女の胸が急げと命ずるには変わりありませんでした。
 
 「何も分からない。何も思い出せない。
 でも、ただ一つだけ。急がなきゃいけない事は分かってる」
 
 彼女を走らせるのは一筋の光でした。

 けれど外惑星の間隔は広く、“徐々に普通の少女に戻りつつある”ユイにとって、その長い闇の旅路はひどい孤独感を掻きたてました。

 百億の時間を旅してきた彼女とは違います。
 ユイの80%はもう、具象化しているのです。未だ身体面は量子的な振る舞いさえしてはいますが、心象面でいえば、ほぼ完全に我々の知る少女・ユイになっていました。

 だから…
 「ちょっと休憩したい」
 と、彼女にも甘えが出ます。