「ばかだね、ばか」
 天王星は言いました。
 「でも、ばかでも、駆け足は得意なんでしょ?」


 「エヘヘ。 うん、まぁね」

 「じゃあ、駆け足」


 「うん。 ……でも、どこへ?」
 ユイは、お互いに妙に親しげな天王星に尋ねます。
 「どこに行けばいいの? どこ行けばいいか分からないんだ」

 「『ち』だよ」

 「『ち』って?」

 「忘れたの?」
 天王星は少し考えて、
 「じゃあ『ち』まで、あといくつが言ってみ?」
 と言いました。何駅あるか、数えろ、というのでしょう。

 「『ち』?」
 ユイはまた指を折っていきます。
 「ち……、か、もく、ど、ってん…。 …だから、四つね」


 「そう、四つ。忘れないで」
 天王星は海王星がそうであったように、ひどく日常的な存在に思えました。事実、ユイはその星の中にある種の懐かしさを憶えます。
 「四つ目よ。『ち』が思い出せなくてもいい。ともかく四つ目」

 「うん、わかった。四つ目」
 会った事のある懐かしさ。
 しかしユイはまだ、それが“誰”だったのか、思い出せません。

 「そう。さぁ、急いで」 
 天王星は背中(があるのか?)でそう言って、長い公転の旅に戻っていきました。


――…ともかく、進むしかなさそうです。