【いや、そうではない…】
 イグニスの手は優しくユイを、虚空の方向へと押したのです。
 【星になど、ならなくていい】


 瞼を閉じているユイは気付きませんでした。自分が、宇宙でもっとも寂しい闇だけが占める空間へと流されている事を。

 イグニスはユイを先回りするかのように追い抜いて、宇宙の空き地とでも呼ぶべき寂しい虚空の中心に辿り着くと……
 
 【星になんか、ならなくていいんだ。 君は…】
 と、まるで人が微笑むときのように言いました。
 
 彼が青年のような口語体で言うのは、初めてでした。



 …………
 ……
 
 ユイは瞼越しの眩しさで目を覚ましました。
 初春に小鳥のさえずりに起こされるような、そんな優しい目覚めでした。

 「あれぇ……?」
 ユイは当惑しました。 
 彼女の前方すぐ近く、だいたい80天文単位ほどの距離でしょうか、先ほどまでは無かった原始星が、若々しく輝いてるではありませんか。

 80天文単位、それは
 イグニスが微笑んだところ……