「うん…」
 美幸さんは微笑みを浮かべ、肩を掴む力んだユイの手を優しく握り返します。
 「うん…わかった。わかったよ、ありがとう… ユイ…」

 もし、夢に訴えられた“竜”という存在を認めるなら……
 どうやら“竜”の好物は憎悪と憤怒と悲愴に間違いないようでした。

 アステカの少年は母親を殺したスペイン人に激しい怒りと憎しみ、悲しみを生み出し、“竜”を定義化(顕現化)したのです。

 ある意味では、それは正当な権利かもしれません。

 きっと貴方だって目の前で恋人がレイプされ、首をちょん切られたら復讐の“竜”ぐらいを召喚する力は持てるでしょう。
 それを責め立てれば嘘になります。

 しかし美幸さんはユイの中に……
 ユイの中の竜に……
 憎悪の類ではない新たな可能性を見出さずにはいられませんでした。

 「ユイさん…。二人なら…私も…大丈夫な気がします。二人でなら…」