マリアは、ゆらゆらとかぶりを振った。

「わからない…。地上はひどい状況だと聞くわ。もう、食べる物も住むところもなくなって、疫病が蔓延し、暴動が起こって、人々は逃げ場もなくさまよっているって。それなのに、わたしたちは、管理されたコロニーで、ぬくぬくと生活している…」

「それは…」



――早いか遅いかの違いですよ…。



ジョーの口がそう動きかけて、止まった。

死期が迫っている…などということは、軽はずみに言えることではなかった。

「オレ、思うんですけど…。みんなを救うなんてことは思い上がりなんじゃないかなぁ、って。人間一人の力なんてちっぽけなものだから。誰か一人でも救えたら…、いや、誰か一人を、少しだけでも楽にできたなら、それだけで、もう、凄いことなんですよ。マリアさんにはシオンがいる。そうでしょう?」