……それは間違いなくユリの物だ。


何でバレるかな。

でも当然正直に話すつもりねーし。


「さっき
廊下でどっかの女とぶつかったんだよ」

「嘘だろ。
ぶつかっただけじゃ
そこまで匂いはつかない」

「じゃあ、その後相手の女が
階段から転げ落ちそうになったから
思わず抱きしめて
下敷きになってやったんだよ」

「“じゃあ”って何だよ。
明らかに今考えてんじゃねーかよ。
駄目だなリョウ。
そんなベタだけど
現実にはありえないような作り話で
俺を欺けると思ったのか」


そう得意げに話す浩に対し
軽く舌打ちを返しながら
もうごまかすのが面倒臭くなって
開き直ったように白状する。


「あーそうだよ、悪いか。
さっきまで女とやってたよ。
んで遅刻した」

「悪いなんて言ってねーよ。
そっか、例の“片思いの女”だろ?
よかったな、両思いになったんだ」


全く厭味のない口調で言う浩の言葉に
ドキンと心臓が高鳴った。

――そういえば俺が片思い中だって
コイツには話したんだった。

すぐ拓郎や裕介とかに
この話題を突っ込まれる覚悟でいたのに
誰にも何も言われなかったから
すっかり忘れてた。


俺は少し考えた後
わざと軽い言い方で答えた。


「違う奴だよ。
まあいつもの事だろ?
あえてつっこむなよ」


そして笑って
この話題を終わらせようとしたら

穏やかだった浩の周りの空気が
がらりと変わり
俺を攻めるような
鋭い視線をぶつけてきたから
自然と身体が固まった。


「何でいきなりそうなってんだよ」

「は?」

「だからさ、リョウ。
この前言った事は何だったんだよ。
好きな奴出来たから
もうフラフラしないって
お前言ってたじゃねーかよ」

「別に俺の勝手だろ。
お前にとやかく言われたくねーんだけど」


少しだけ俺の口調が強くなったら
それにつられたように浩の声も大きくなる。