「びっくりしたよ!
いきなりアイツがステージ現れて
しかもあの歌声。
俺しばらくトリハダ立ちまくりだったし。

あのルックスであの声。
オーラもスゲエし
どっかの芸能人かと思った。

水くせーよ、リョウ。
全然教えてくれないんだもんよ」


やっぱその話か。

ユリもそうだったけど
今日は一日この話題
聞かれまくりになんだろーな。

俺はうんざりした気持ちを抑えながら


「悪いな。
まだアキがバンドに入ってくれるか
確証なかったからさ」

「ふーん、そうなん?
でもアイツがボーカルになんなら
お前らのバンドのデビューも
ますます夢じゃなくなってきたよな。

友達がメジャーデビューとか
マジで興奮する」


そんな風に先走って楽しそうに話す浩に
適当に相槌をうちながらも

「そんな甘いもんじゃねーよ」と
内心では冷めた突っ込みを入れてる俺は
やっぱり普通の精神状態じゃねえと思う。


あんなにアキの声が欲しくて
必死で勧誘してやっと手に入れたのに
何で俺はこんなになってんだよ。

本当ならこんな風に腐って
堕ちてる場合じゃねえんだ。


そんなジレンマに襲われて
思わず机に突っ伏しながら
顔だけ浩の方に向けた。


するとどっかの代表の
有名選手のインタビューに目を通してた浩は
怪訝な顔をして視線を俺に向けた。


「リョウ……」

「何だよ?」

「ちょっと起きろ」

「は?」


訳がわからねぇながらも
言われた通りに起き上がると
浩は俺の両肩を掴み
首元に顔をよせてきた。


「ちょっ、てめー何すんだよ。
キモチワリイからよせ!」


慌てて浩の腕を振りほどき
前の椅子を蹴っ飛ばして抗議した俺に
浩はニヤリと楽しそうに口元を歪ませた。


「女のあま〜い
香水の匂いがする。
何でだろうな、リョウ」