『たまには流されるのも悪くない』

前にアキに言ったこの言葉が
今は自分自身に降ってくる。


「何でかスゲー癒される。
お前の手の平
マイナスイオン出てねぇ?」

「そお?
でもこうするの久しぶり。色々と思い出しちゃうわ」

「そうだな」


俺はそのままユリの腰を
さらに左手で抱き寄せながら
右手は上に登り耳の下の首元のあたりへ。


「リョウ、くすぐったいわよ」

「お前ここ弱いのかわんねーな」

「そんな簡単には、
変わらないわよ」


ユリはそう言いながら
俺の足の間に膝をつき
両腕を首の後ろに回した。

懐かしいユリの甘い匂いが
俺を何とも言えない気分にさせる。


その瞳がゆっくりと閉じられ
彼女の身体を
きつく抱きしめようとした時――

ハッとしたようなユリの声と同時に
胸を強く押される感覚。


「ダメよリョウ。
あなた私とこんな事してる
場合じゃないでしょう?」

「こんな場合って
どんな場合だよ」

「だから西条さん!」


その名前を聞いた途端
両腕の力が抜けて下に落ち

自然と顔を横に向けて
窓から注ぐ日差しが床に作った
無機質な影をジッと見つめる。


ユリは後ろに下がって再び俺の前に立ち
少し興奮した様子で


「リョウには
ちゃんと想う人がいるんだから
ふらふらしないの!
彼女知ったら怒るわよ」

「…………」

「それにしても驚いたわ。
この前のライブ
まさか彼女が歌うとは思わなかった。
しつこくライブに来てた
あんたのファン
これで完璧に諦めたでしょうね。

リョウ何にも教えてくれないんだもの。
まさか西条さんがリョウ達のバンドの
ボーカルになるなんて――」

「――やめろ」