驚いた様子で振り向いたユリの顔を
俺は真っすぐに見て軽くわらってみせる。

その時ユリが
何を思ったかわからねぇけど

少し黙って
俺の事を探るような表情をした後
不機嫌そうにゆっくりと近づいて来た。


視界に映る細い指。

この前はこうやって真希に殴られたな
なんてボンヤリと考えなから
今日も同じ結末になるかもと
覚悟をしていると

額にそっと置かれた
さっきよりも冷たい指。


ユリはクスクスと笑いながら


「自分で言っといて
何驚いた顔してんのよ」

「うるせーな、
さっきより手が冷たかったから
ビックリしただけだよ」

「水、触ったからね」


ユリの清らかに流れる
優しげな声が頭に響いたのと
額のひんやりとした感覚が合わさって

頭の痛みが
段々と消えていくのがわかって
自然と目を閉じた。


暗闇の中に
変わらず降り注ぐ心地よい声。


「相変わらず男の癖に
こーんな長い睫毛しちゃって
憎たらしいわよね」

「しらねーよ。
お前の方が
クルクルしてんじゃねーかよ」

「これは絶え間無い努力の賜物なの!
リョウは天然でしょ。
もしかして女装したら
私なんかよりよっぽど綺麗になりそう」

「んな話、気持ち悪ぃからやめてくれ。
お前よりってどんだけなんだよ。
うちのクラスの野郎どもが
かわいーかわいー騒いでるぜ」

「ほんと!?うれしー。
今度挨拶に行こうかしら」

「やめとけよ。
ただでさえ俺にお前の事紹介しろって
うるせーんだから。
面倒臭い事になりそうだろが」

「ふふっ、いーじゃない別に。
リョウのクラスの人皆楽しそうだし
今度紹介してね」

「やだ」

「……何でよ」


少しだけ怒ったように聞こえて
気になって目を開けた。