座席につき
呆然とステージを見上げながら


「アキ、Down Setのファンだったんだ?」

「こんな前のチケット取れるなんて
凄ぇくじ運よくない?」


とかいった
白々しい質問をしてみようかと
一瞬思ったけどやめた。


これらの質問を否定した後に
言われるかもしれない
“ある言葉”を聞くのが怖かったから。

臆病者でめちゃめちゃ格好悪いって
十分自覚はしてたんだけど。


そうして俺は
ひたすら当たり障りのない話題を選び
左隣りに座るアキと会話を続けていると
スッと照明が暗くなった。


途端に巻き起こった
耳が痛くなる程の歓声。


回りの動きに合わせるように
座席から立ち上がると

視界一面に広がる
ステージと客席を照らす
無数のライトとレーザービーム。


興奮しきった客は
バンド名をコールしながら
今か今かとその登場を待つ。


――そうして客を焦らすだけ焦らして
登場したDown Set。


派手な仕掛があるわけじゃなく
ただ普通にステージに
上がってきただけなのに
一瞬にして会場の空気がガラリと変わる。


日本一の人気を誇るロックバンド。


そのオーラを目の当たりにして
俺は圧倒されたように
ステージを凝視し
ただその場に立ち尽くしていた。