「すげえいいバンドだろDeFaut。
俺も大好きなバンドで
技術も高いし
曲の独創性もハンパない」

「うん」

「それにメンバーみんないい人でさ。
……でもこのバンド
結成して10年以上になるのに
デビューの話は全然聞かない。
こんなに実力あんのにさ
かなり信じられない話だけど」

「…………」

「それはやっぱこんな場所だから
スカウトなんか来ねーし。
だから東京で活動してる奴らより
圧倒的に不利な環境だと思う。

デビューするには、
音楽で成功するには
実力だけじゃ駄目なんだって
彼らを見てると嫌でも実感すんだよな。

実力と運とタイミングと
そのほか色んなもんが重なってやっと
あの限られた者しか入れない世界に
進むことが出来るんだ」

「……うん」


わずかに目を伏せてアキは返事をする。
まだその感情はわからない。


「だからさ、
目の前に転がってるチャンスを
逃すほど勿体ねぇ事はないって思うんだよ。
今逃したら
次はいつそのタイミングが
回ってくるかわからない。
むしろもう回ってこないかもしれない。

俺らからしたらお前をバンドに入れる事。
お前は俺らのバンドに入って
デビューを目指す事。

利害が一致してるわけだし
あと俺もお前の勧誘飽きたし
いい加減、次のステップに
進みたいんだけどさ」


半ば投げやりになってきた俺に対し
西条は吹き出したように笑った。


「うん。
私もいい加減
リョウに勧誘されんの飽きてきたかも」

「だろ?
って訳でアキ。
歌うよな?俺らのバンドで」

「こんな素人ステージに上げて
観客から苦情が来たら
リョウ責任取ってよね」


その言葉が意図する事に
ドキンと心臓が高ぶった。
震える拳を強くにぎりしめる。


「わかってるよ。
そうなったら全員に土下座して回って
チケット代全部俺が弁償してやるよ」

「意外……。
そんな奴ら全員俺がぶっ飛ばすとか
言うと思った」

「はっ!
金払って見に来てくれた客を
そんな扱いすると思ったか。
どんだけ偉そうなんだよ」

「じゃあ、……リョウが
借金まみれにならないように
私も気合入れるとするかな」