「リョウがつれてきたんじゃん」

「まあ経過はそうだけど
お前がここにいるのは変わらない事実だし。

……わかった。
じゃあ逆に聞くけど
なんでバンドで歌いたくないんだ?
今までも色々聞いたけど1番の理由は?」


しばらくアキ何か考えこんで
膝の上で両手を握り締めながら
視線を俺の背後の壁に移し
言いにくそうな表情をした。


「いくらリョウが私の歌を
気に入ってくれてたとしても
二年も前の事だもの。

今までずっと歌ってこなかったし
きちんとバンドで歌った経験もない。
だから正直に言うと自信がない。
がっかりされたりするかもとか」

「……お前バカだろ」


予想もしてないことを
アキが話したもんだから
思いっきり力が抜けた。


そんなくだらねぇ事で今まで……。


「お前な、ホントバカ。
そんなの百も承知だってーの。
最初っから完璧に出来る奴なんか
いるわけねーだろうが。

……お前の歌を初めて聞いたとき
歌唱力の高さも驚いたけど
それよりもお前の声が持ってる
独特の存在感に
惹かれた部分が大きかった。

歌唱力の高い奴はそこそこいる。
でもお前じゃなきゃ駄目だったのは
俺らがやりたい音楽に
お前の声がぴったりとはまったからだ。
コイツなら、俺らの世界観を
完璧に表現できるってな。

だからさ、難しいことは考えんなよ。
今のままのお前がいいんだ」


俺がそう話すと
アキは雷に打たれたみたいに固まって
動かなくなってしまった。

そんな呆然とする彼女の手を引き
椅子から立ち上がらせると
そのままドアの方へ向かう。


身体を引かれて不思議そうに
俺を見上げたその顔に
にやりと笑みを返した。


「アキ、いいもの見せてやるよ」