“人の人生に影響を与える事に
強い拒否感を示す”

ってコイツの性格を利用したりとか
罪悪感でかなり胸が痛ぇけど
今は心にも時間にも余裕がなかった。


「悪いなアキ、こんな言い方して。
苦情なら1時間半後には
いくらでも聞くから
今は黙ってついてこいよ」

「わかった。
わかったから下ろしてよ。
逃げたりとかしないから」


そう話したときの声に
嘘はないって思えたから
下へ向かうエレベーターの中で
彼女の身体を降ろすと
無言でスニーカーを差し出した。


まもなく1階へ到着して
念のためアキの手をしっかり握り
エントランスへ向かう。

その時、外から流れてくる風が
妙に湿気を帯びてて
嫌な予感がしたと思ったら案の定……。


「……雨」


俺らの視界に映ってるのは
さっき降り出したとは思えないほどの
横殴りの雨。

やっぱり天気予報は侮れねぇ。

っとにマジかよ。
ここに来て超難関。
人生はそう甘くない。


手をつないだままエントランスを出て
雨が当たらないギリギリの所に
二人で並んで立ち空を見上げる。

真っ黒な雲が永遠と広がってるから
当分この雨はやまないだろうと思う。


そして何を考えてるかわからない顔をして
隣に立つアキを見下ろすと
上がキャミソール一枚な事に
この時初めて気がついた。


俺アホか!!
靴の事しか頭になかった。

ほんとにさ、この運のなさ
どうにかなんねえのかな。

上着取りに行く時間なんか
もちろんねぇし……。


だから迷わず、自分が着てる
ダメージ加工の黒のジャケットを脱ぐと
彼女に半ば強引に着させ
前のジッパーをしっかりと閉めた。