「それよりも、リョウ。
こんなとこで何やってんの?
ライブ前にこんなとこにいていいの?」

「別に、これといって
理由はないけどさ。
タバコ吸いたくなっただけ」


改めてタバコを取り出し
そう言い訳した俺を
真希は全く疑うことなく
まっすぐに見つめる。


「ふーん、
そういえば西条さんは?
彼女一緒にいなくて大丈夫なの?」


……女ってなんでこう
カンが鋭い生き物なんだろうな。

まぁ、この際隠してもしかたねぇし。


「アキはまだ来てない」

「え!?西条さん来てないの?
もしかして、リョウ
西条さん待ってるんじゃないの?」


……マジで鋭すぎ。


ここまできたら
コイツには隠し事は
何もかも通用しない気分になってきて

半ば開き直りながら
タバコの煙と共に白状する。


「ああ、実を言うとそうだったり。
さっきからアイツの事待ってんだけど
全然現われる様子ないし」


俺の言葉に対し
急に真希の表情が固くなり
赤いシャツワンピースから伸びた
細い腕を組みながら目元を潜めだした。


「ふーん。
それでリョウはいつまでここで
彼女の事待ってるの?」


……何か、問題なわけ?

不思議に思いながらも更に会話を続ける。


「とりあえず出番のぎりぎりまでは
ここにいようかと思ってるけど。
中にいても落ちつかねぇし」

「ふーん」


さらに鋭い視線。

いったい何だってんだよ!?


そして口を開こうとした俺の言葉に
かぶせるように


「そんなのリョウらしくない」

「何が?」


訳がわかんなくて
呆然とタバコを咥えたままの
俺の顔の前に
真希がゆっくりと
手を伸ばしたかと思ったら

小さな拳でもって“ガツンッ”と
思いっきり額を殴られた。