ふとそんなことが頭をよぎり
デニムのポケットから
新品のブルーの携帯を取り出し
アキの番号を表示させる。

11桁の数字をしばらく眺め――
再び画面を閉じてポケットに閉まった。


待ってるって言った手前
やっぱ電話は出来ねぇ、よな?


デジタル時計を再び眺めながら考える。

俺らの出番が7時半だから
逆算すると電車なら7時
車(っつーかタクシー?)なら
7時10分にマンションを出れば
アイツがギリ間に合うって事だな。


ってこんな事俺が計算しても
何の役にもたたねーつーの!


揺らぎそうな気持ちを打ち消すように
こぶしを強く握り締めた。

絶対にアイツは来る。
っていうかそう信じたい。


やがて時計が“30”と表示され
しばらくすると客電が消え大きめの歓声。

その後は勢いだけは十分な
ニノベーダーの演奏が始まった。


駄目だここにいたんじゃ
心臓もたねぇ。


ぐだぐだしてる自分にも腹が立って
俺は椅子から立ち上がり

今からフロアの中に向かおうとする
人の波に逆らうように
会場の外に向かって歩き出した。