「ああ、カズマは俺らの中じゃ
一番Down Setのファンだかんなぁ。
ちょっと陶酔の域に達してるから
そんな風に思うのかも知れないけど」

「せやな。
えーか、カズマ。
逆に考えててみろや。

あいつらがやってたことぐらい
軽く出来なきゃ、
俺らもメジャーなんか狙う資格ないって
言うことやで」


……それはちょっと話が飛躍してるけど
この際なんでもいいか。

カズマの心を動かすことが出来るのなら。


「そうやって訳わかんねぇ事言って
丸め込もうとしても駄目だぜ」


めずらしく鉄壁のディフェンスだ。

でも後もう一押し。


「言ってもまだ彼らが
東京に出る前の話だろ。
二年前っちゃあメンバーもまだ二十歳前後。
俺らとそう年齢も変わんねぇし。
今の奴らの実力はメジャーでもまれて
培われてきたもんだ。

そういった意味でも
俺らにも出来るんじゃないかって
思うんだけど」

「…………」


おお、揺れてる揺れてる。

後一歩と思ったところで
ケンゴから最終兵器バリの攻撃。


「俺はDown Setのギターの奴より
カズマの音のがよっぽど好きやし
上手いって思うけどな。
お前なら出来る思うで」


ケンゴの言葉を聞いたとたん
真っ赤な顔で絶句するカズマ。

……堕ちたな。
コイツは甘い言葉に弱いんだ。

さらに俺からの決定打。


「ケンゴはこう言う視点では
めちゃくちゃシビアだし
嘘言うわけないってお前も知ってんだろ。
それにこうと決めたら絶対折れねぇし。

……覚悟きめろよ」


そして二人してカズマの方を向き
何も言わずに視線だけ投げかける。

しばらく沈黙が広がり
その後カズマは諦めたようなため息をつき
まだ顔の赤いまま口を開いた。


「わーった、やるよ。
やればいいんだろ。
お前らにそこまで言われたら
断れるわけねぇーだろが」