「ここだよ、アキのマンション」


結構年季が入ってるけど
かなり趣味がよくて趣の残る
灰色のコンクリートの壁を見上げる。


「へぇ。
結構いいとこすんでんじゃん」


時間を確認するとギリギリ10時前。

一人暮らしの女の家に行くには
ちっと遅いけど
今日だけは勘弁してくれ。


「どうするお前も行くか?」


と例の曲のデモテープと歌詞
ライブのチケットと
ライブハウスまでの地図

それから彼女への差し入れに
コンビニのデザートが入った袋を
カズマに向かって掲げる。


「いや、いい。
俺ここで待ってるし」


と垣根を囲んだブロックに腰を下ろし
ポケットからタバコを取り出す。


「10分待っても戻ってこなかったら
やってるものだと判断して
先に帰るからな」

「アホか、5分で戻る」


笑いながら
エントランスに向かった俺の背中に
カズマの「ごゆっくり〜」と
のんきな声が送られた。