驚いたように足を止め
少しの沈黙の後またゆるく歩き出す。


「ホントだよな、
今まで嘘みたいになかったもんな。
暗黙の了解っつーか。

……といっても取り合うほど
執着した女なんかいなかったけど」

「さりげなく酷いこと言ってるけど
まあ事実だよな。

始めはまさかアキのこと
好きになるなんて思わなかったんだよ」

「ほーう、じゃあ
どうして好きになっちゃった訳?」


からかうように俺の顔を覗き見た。

一瞬迷ったけど正直に打ち明けてみる。


「お前がよく俺の事
“音楽バカ”って言うけどさ、
正にそんな感じで

今まで色んな女と遊んできたけど
ほとんどの奴は
それなりのメロディに
それなりの歌詞をのせた流行りの曲聞いて

“超いい曲だしー歌詞聞いて泣いたー”
とか言っててさ
それ聞いた途端に冷めた気持ちになって
こんなクソ曲聞いて
感動したとかありえねぇって
その女とやりながら2度目はねぇな
とか思ったりしてさ。

こんな考え
最低だってのは分かってるんだけど。

いくらそいつが可愛くて
性格もスタイルもよくても
そこが違うともう駄目で
のめり込める女なんかいなかった。

だからいつも心のどっかで
俺と同じ音の世界で生きてる奴
探してた気がする」