「いきなり喧嘩売るとかすんなよ?
あいにくそういうの大得意なんだけどさ。
俺はしつこいから覚悟しろよ」


サクラの視線を真っ向から受け止めて
にやりと口元をゆらす。


「どうしてあの日お前じゃなくて
アキがDown Setのステージに立った?」

「…………」

「きっとお前はアキが歌えるって事
それを見るまで知らなかった。

アイツの声を初めて聞いた時
どんな気持ちになった?」

「…………」

「その日以来
Gold Cherishは活動を停止してる。
お前がアキの歌を聞いたのが
原因じゃないのか?」


適当に言ってるように見えるけど
実は結構自信がある。

このプライドの高そうな女が
アキの歌を聞いた後
何事もなかったように
同じバンドで歌を続けるとは思えないし、

かといってそのポジションを
アキに譲るとも思えないから。


「カンが鋭いのね」


言い当てられたことを
全く気にしてないような
平然とした様子で口元に笑みを作る。


「確かにあなたの言う通りよ。
アキが歌えるなんて、
あの瞬間まで知らなかった。

でも別に彼女の歌声に嫉妬したとか
そんな訳じゃないの。

今までそんなこと一言も話してくれなかった
アキにも腹が立ったし
自分がやってる音楽は
一体何だったんだろうって……。

そう思ったら
もう続ける気にはなれなかった」

「……それじゃあ
何でまたバンドを再開したんだ?」


しばらく間があって
アイスコーヒーの氷がカランと音を立てた。


「これしか、ないから。

私には音楽しかないから
やっぱり止めたりとか出来なかった。
アキみたいには歌えないけど
私には私の歌があるから」


今までみたいな
自信のある話し方とは少し違った
でも変わらず強い声で。


「凄く、良くわかるよ」


こいつも俺達と同じなんだ、そう思った。