『二兎をえる者は一兎もえず』
だっけ?

そんな考えが頭に浮かんでは消えた。


笑いたくても笑えねぇ。


電話を終えたアキを見てピンときた。
今こいつに謝られたらここで終わるって。

だから卑怯かもしんねーけど
謝られる前にこっちから謝った。

それに『電話の相手は誰だ?』とか
聞いてもいけないような気がした。


――マジで誰だよ、好きな奴って。
アイツにあんな顔させる奴。


検討もつかなくてイライラする。


このことがある前は
もしかしたら俺じゃねぇかとか
心のどっかで期待してた部分はある。

今となってはすげぇかっこ悪いけど。


天国から一気に
地獄に突き落とされた気分だ。


やっぱり、ペースが速すぎたのか?
もっとゆっくり進めるべきだったのか?

二ついっぺんに手に入れる前に
一つのもの
この場合は“彼女の声”を
先に手に入れるべきだったのか?


――でもあの時
アイツを欲しいと思った気持ちは
間違いなんかじゃないし嘘でもない。

後悔とか、したくねぇし。

落ち込む気持ちを
無理矢理どこかに追いやろうとする。


凹んでる暇はない。
今はやらなきゃいけないことが
たくさんあるんだ。


でも少しだけ
天に祈るような気持ちで

――アキ、頼むから
もう一度壁を壊してこっち側に来い。

そう願いながら俺はさらに足を速めた。