「慣れてなんかねーよ。
ってかアキ、まだ顔まっか。
そんな目で睨むな。
我慢できなくなんだろーが」

「が、我慢って何!?」

「ん、まあ色々。
なあ、俺にしとけよ。
俺はおまえを絶対に一人にしない」


急展開に目を白黒させてるアキは
瞬きを繰り返す。

でもやはりガードが固く
すぐに冷静な目をして


「そうやって言うのは、
私の声が欲しいから?」

「あぁそっか、
まだその事言ってなかったよな。

正直に言うと、
女としてのお前もボーカルとしてのお前も
両方手に入れたい」


あまりにあっけらかんとした俺の態度に
アキは面くらったよう。


「“君が側にいてくれれば
他に何もいらない”とか
そんな歯の浮くような事は言えない
本心じゃねぇから。

悪いな欲張りで。
俺はほしいものは諦めないタチだからさ。
でもお前を勧誘すんのは
これを最後にするからよく考えろ。

お前の夢の
“ケイの歌を世界中にひろめる”
その1番の近道は
お前がまずプロになることだろ?」


彼女も俺と同じ考えだったらしく
力強く頷いた。


「プロへの1番の近道は
俺達のバンドに入ることだ」

「どうして?」


アキの目の光が少し強くなる。

俺は負けじと
その強い光を真っすぐに捕らえ
言葉を続けた。


「お前の歌を輝かせることが出来るのは
俺の作る曲以外にない。

これから先どんな曲をお前が書こうとも
どんな有名作曲家が
束になってかかってこようが
負ける気がしねぇ。

お前の声を1番よくわかってて
お前が歌いたいって
1番思える曲が書けるのは俺だ」

「どっからそんな自信」


ぶっちゃけ、ハッタリも半分だけど
気持ちだけは今言った事に嘘はない。
科学的な根拠もないけど。


「今まで俺の書いて来た曲は
全部お前の声を想定したものだ。

現に今まで聞いてきた多くの曲の中で
俺の作った曲より
心惹かれたものが存在したかよ?
……Deep End以外で」