捨てられた子犬みたいな目をしたアキは
震える手を伸ばし
俺からギターケースを受け取ると

ギュッとそれを胸に抱きしめて
制服が汚れるのなんか全く気にしないで
土の地面に座り込んだ。

そして「よかった」と
今にも泣き出しそうな声を上げる。


その姿を見て
信じられないといった表情の真希。

彼女の方を向いて俺は言う。


「理解できないって感じだろ?真希。

実際にはされてないとしても
腕一本ぐらい
何でもないって言ったこいつが
たかがギター一本で
こんなになっちまうなんてさ。

やっぱさ
音楽やってるやつにしたら
楽器は凄い大事なもんなんだよ。
時に自分の事なんか
どうでもよくなっちまうくらいな。

常識的にはいくら楽器があっても
身体がどうかしたら
意味ねーじゃんって思うんだけどさ
――理屈じゃないんだ」


緊迫した顔でアキのそばに立つカズマ達も
俺に同意するかのように沈黙を続けた。

それを受け止めた真希はうつむいて
「ごめん、なさい」と
震える声でつぶやいた。

取り巻きたちも
気まずそうな反省顔をみせる。


それに何の反応もせず
相変わらずギターを抱えたまま座り込み
微動だにしないアキ。


――様子がおかしい。


「……アキ?」

「西条?どないしたん?」


俺よりアキのそばにいたケンゴが
しゃがみこんで
心配そうに彼女の顔を覗き込んだ。


「なんやお前、顔真っ青やんか!!」


そう大声を上げたとたん
ふわりと彼女の身体が揺れて


「アキ!!」

「西条!!!」


ケンゴがすぐに手を伸ばし
地面に倒れる前のその身体を受け止める。

その後ガタンと
彼女の手からギターケースが落ち
土の地面の上に
ゆっくりと沈んでいった――。