「やめた」


いきなりそう呟いた俺に対し
まったく状況が掴めてない顔で


「えっ?、何を」

「遠慮すんの、やめた」

「???」

「これからお前の事
本気で口説くからちょっと覚悟しろよ」


口の端を歪ませ笑いながら言った俺に
おもいっきり警戒したアキは
繋いだ手を振り払う。


「ちげーよ。“口説き”違い。
お前を俺らのバンドに入れるって意味で
口説くっつったんだよ」


そう言ったとたん
スッとその顔に影が落ちた。


「今日一日過ごして改めてわかった。
お前は生粋の音楽バカだ。

買い物してたって
いちいち有線の音楽に気とられてたし
CD屋の件にしても今の件にしても
あと夕方スクランブル交差点で
ぼーっとしてたのも今と同じ理由だろ。

お前の頭の中はいつも
音楽中心でまわってる。

今までそうだったみたいに
この先も音楽を止めたりとか
絶対出来ない。
きっと何があっても。

それなのにお前は
バンドも組まず歌も歌わず
一人でギターを弾いて
一体何がしたかったんだ?
お前の目的は何だ?」


一気に話した俺の言葉を
険しい顔をして聞いてたアキは
覚悟を決めたみたいな目で俺をみて
長い沈黙の後口を開いた。


「別に歌うのを諦めた訳じゃない。
バンドで歌うのをやめただけ」

「どういう、事だ?」