5階まであるフロアの3階へ
エスカレーターで上り


「俺、雑誌見たいのあるから
ちょっとあっち行ってるな」

「うん、わかった」


とお互い目当てのところに向かう。

フロアのかなり奥にある雑誌コーナーで
ベースマガジンを手に取ろうとして
あることを思い出し手が止まる。


アイツ……ヤバッ!


あわてて新譜コーナーへ走ると案の定
見るからにガラの悪そうな男に
話しかけられてるアキ。


明らかに拒否ってシカトする彼女に
無理矢理自分の方に振り向かせようと
そいつが手を伸ばすのが見えたから

あわててアキの腕を引っ張り
その身体を胸に引き寄せた。


彼女の細い髪が
シャツ越しの俺の胸に触れる。


「リョウ……」


彼女を半分抱きしめる形で
だいぶ背の低いナンパ野郎を見下ろすと
そいつはびびったような顔をして
俺らの視界から消えていった。


「あー焦った。
お前、変な奴に絡まれたら呼べよ。

さっきもっと人を頼れって
言ったばっかだろ?
タチの悪い奴なんか山ほどいんだから」


興奮してまくし立てた俺を
すぐそばで無言で見上げるアキ。


「あ……、っと悪い。
違うな、お前のせいじゃない。
今のは完璧俺の不注意だ。
お前を一人にした俺が悪い。
こうなるって事予測は出来たのに。

ごめん、大丈夫か?
何もされてないか?」


顔を覗き込むようにして聞くと
赤い顔をしたアキが
「大丈夫」と首を横に振った。


「ああ悪い
お前男慣れしてねぇもんな。
いい加減俺ぐらい慣れろ!
ってことでとっととCD買って来い」


軽い口調で送り出すと
アキは棚から目当てのCDを手に取り
レジの方に走っていった。