「どうした?」


俺の問いかけにあわてて首を振り


「ううん、何でもない」


と再び足を前に進める。

その後も歩きながら2、3度視線を左へ。


俺は少しため息をついて
右側を歩くアキの腕を少し強めに引っ張り
立ち止まらせる。

そして不思議そうに俺を見あげた
彼女の額をだいぶ力を加減して叩いた。


いきなりの俺の行動に
さらに“訳がわからない”って顔をして
額を両手で押さえるアキ。


「ばーか、何が“何でもない”だ。
嘘ついてんじゃねぇよ。
あれだろ?」


と左側のある一角を指す。

彼女の向けていた視線の先は
某大型CD店の
入り口の上に設置してあるモニター。

そこに映っていたのは
人気のUSロックバンドの新曲のPV。

記憶をたどると
アキの家のCDラックに
彼らの1stと2ndアルバムが
結構目立つところに
並んで置いてあった光景。


「だって」

「だって何?」

「今日はリョウ
ほとんど音楽の話しないし。
それは私の事考えての事だって
わかってたから」


……なっ!
思わず力が抜ける。


「アホ!!
そこまで気付いてんのに
なんで肝心なとこ抜けてんだよ。

確かに今日はなるべく音楽抜きで
行こうとは思ってたけど
その原因のお前が我慢してどうすんだよ。
行きたいんだったら行こうぜ」


なんでこんな変なことで遠慮してんだ。
自分の気持ちもっと素直に言って欲しい。

なかなかスムーズに開かないその心が
改めてもどかしい。


「でも……」

「奴らの3rd買ったのか?」

「まだ」

「欲しいか?
嘘ついたらまたどつくぞ」

「……欲しい」

「ん、じゃあ行こうぜ。
俺もちょうど見たいのあったし」


再び手を引いて歩き出したら
小さく「ありがとう」と
つぶやく声が聞こえた。