「凄く大事な人がいたとして
でもいろいろな原因があって
その人のそばで
直接守ることが出来ない時

大抵の人は心の中だけでもって
その人の幸せを願いますよね。

どうかその人がいつも笑って
過ごしていますように……とか」

「……あぁ」


話が抽象的で
いまいちつかめないけれど。


「でも願ったところで
そんなのあまり意味がないんだ。
実際は何の役にも立たない。

もしその人が危険な目にあったり
悲しくて泣いていたりした時

やっぱりその人のそばにいないと
本当の意味で
守ってる事にはならないんだ」

「……誰の、話だ?」


実際に
そういう人物がいたように話すから。

煙を吐きながら俺がそう聞くと
タケは今まで見せたことがないような
切なそうな顔をした後


「え〜っと
ドラマで主人公がそんな話をしてました」


と軽い口調でおどけた表情を見せた。


タケの言葉が
まるで俺自身のこと言われてるみたいで
胸が苦しくなった。


でもこの話はきっと


「みんな色々あるよな――」


とタケの肩を二回、優しく叩くと
身体を一瞬震わせた後

伸ばしてた膝を立て
そこに腕を乗せて
タケは顔を隠すように俯いた。


普段ふざけて
アホな事ばっかり言ってるコイツも

いつもニコニコして
人の幸せばっかり優先させてるケイタも

それに
いつもクールに振るまってるけど
実は感情的で傷つきやすい西条も


みんな色々抱えて生きてるんだ。
表面には見えない物と戦ってる。

そう多分俺だって……。


その後しばらく屋上には
相変わらず野球部の掛け声と
俺の煙をはく音と
タケの鼻をすする音が響き

オレンジ色に揺らめく夕日が
二人の姿を照らしていた。