「そんな深刻なことじゃないよ。

高校入ってクラスメイトに
バンドに誘われて参加したけど
あんまり上手くいかなくて

抜けたいって言ったら
怒って殴られて追い掛けられて
監禁されかけただけ」

「監禁って、お前まさか」

「それは大丈夫。
ほら私足技強いからさ。
蹴っ飛ばして逃げて
すぐ知り合いに電話して助けてもらったし」


演技だってまる解りの明るい声と表情。
それが余計に胸にしみる。

最悪の状態は免れたと知って
少し安堵したけど
でも大丈夫なわけないだろ。

こいつは女で
そん時の恐怖は想像を絶する。

相手の野郎はどこの誰だか知らないけど
今すぐ行って殺したい気分だ。


「こんなこと聞くのは
お前にはつらいかもしれないけど、
相手の野郎は今どこで何やってんの?」

「ちょっと精神がおかしかったみたいで
まだ病院にいるって聞いた」


そう言った彼女の顔はさっきとは違って
悲しいのに泣き方がわからない
……そんな表情をした。


その顔を見て思わず
西条を抱きしめたくなったけど
それは彼女を
余計に辛くさせると思ったから

両手を硬く握ることしか出来なかった。