「西条、俺が話したいのは
お前が考えてるようなことじゃない」

「……じゃあ何?
私の歌なんか聞いたことないでしょう?

アイツだって言ってた。
お前はきれいな服着て
笑ってそこに立ってるだけで良いって
余計なことはするなって。

嫌だって言ったら……
私が自分の思い通りに
ならないって知ったら

急に手のひら返して
私を追い掛け回して閉じ込めて
自分のものにしようとした!
あんたも、あいつと同じでしょ?

またあんな思いするぐらいなら
無理矢理やられるぐらいなら
こっちからやってやるわよ!
こんなのたいした事じゃない!!」


そう叫びながら俺のシャツの胸元を
震える手でつかむと
透明な涙をポロポロと流した。


俺は身体を少し起き上がらせると
自然と導かれるように
右手をゆっくり彼女の目元に伸ばした。


西条は一瞬ビクッと震えたけど
手を払ったりはしなかった。


人差し指に涙のしずくが落ち
ひんやりと濡れていく感覚。

心臓が痛くて痛くてたまらない。


「たいした事じゃない
なんて嘘、言うな。
お前はそんな女じゃない」


静かな教室に響いた俺の言葉を聞いて
西条は力なく両手を膝の上に置くと
肩を小刻みに震わせ
さらに大粒の涙を流した。


剥き出しになった細い肩が余りに弱々しく
床に落ちたシャツをその肩にかけようと
俺は更に身体を起き上がらせた。

すると背後で
部室のドアがガラリと音を立てる。


「うわぁっと!!
アニキと西条先輩!」