「十里子ちゃん、聞いてる?」
「あっ」
我に返る。
「それでさ、俺の荷物を全部、ごていねいに、こんな感じにまとめてくれちゃって」
奥原さんがキャリーバッグをあごで指す。
「それと一緒においてあったのが、ここの住所の紙ね。でもここの鍵を持ってるわけもないから途方に暮れてたところを十里子ちゃんが来て……ほんとによかった」
「鍵は、もって、ない、の?」
「鍵? あー、指紋認証だったんだけど、登録が消されてた」
「ああ、そう……」
「あれ? 十里子ちゃん、大丈夫?」
なんだか急に悲しくなってきた。
あの女から捨てられたような気持ちになって、いらないってずっと思ってたはずなのに、いざ切り捨てられるとむなしくて……
「あたし、華頼から、え、あたし……」
どんどん息が上がって、頭の中がぐるぐるして、やがて視界がブラックアウトした。