「……」

「よかった! 来たのはいいんだけど鍵持ってなくてさ……あ、俺は奥原」


もちろん知ってるよね?

と言いたげな、テキトーな自己紹介だった。

だけどあたしは知らない。あやしすぎる。


「誰?」

「だから、奥原……奥原準一(おくはらじゅんいち)だって」

「あたしの知り合いにアンタみたいな人いないし」


すると男の人──奥原さんは、驚いたように目を見開いた。


「え! もしかして何も聞いてないの?」

「だから知らないって言ってんでしょ!」


奥原さんが次に言った言葉は、ただでさえ半ギレのあたしを完全にキレさせるには十分すぎた。



「お母さんから何も聞いてないの?」