俺は父上の仕事に来ていた

社長室のソファに座って、まっすぐに父上の顔を見る

秘書が、心配そうに部屋のすみから伺っているのがわかった

「私に何の用かな?」

「…わかってるくせに」

「まあね
でも一応、聞いておくよ」

父上がほほ笑んだ

目尻に皺ができる

オールバックにしている髪には、白髪が混じっている

俺が知っている父親の顔から、たいぶ老けたみたいだ

たいして会っていないしな

「俺は貴美恵との婚約を解消する」

「うん、知ってる」

「桃香と真剣に付き合うつもりだ」

「うん、それも知ってる」

父上がにこにこと笑っている