「莉子、行こう」

「え…あ…うん」

藤城君がすたすたと歩き始める

私は、愛子さんと久我さんのほうへ振り返る

久我さんはにっこりと笑って、手を振っていた

愛子さんは、唇を尖らせて不満そうにしていた

「藤城君、怪我って…顔だけじゃなかったの?」

「え? ああ、肩と腕を打撲してるみたい
心配しなくていいよ
痛みがあるだけだから」

え?

痛いから、つらいんじゃないの?

「愛子さんが湿布とか持ってきてたみたいだけど?」

「彼女の手当ては受けない
そんなに言うなら、莉子が湿布を貼ってよ」

藤城くんが足をとめて、振り返ると一本の木に私を追いつめていく

「でも…その前に、莉子の忘れ物をいただかなくちゃ」

藤城君が意味ありげな笑みを浮かべて、唇を重ねてきた

「…ん!」

こんなところで…藤城君、何をしているの?

誰かに見られたらどうするの!

愛子さん…まだ、道場にいるんだよ?

この道を通るかもしれないのに…