「なら…良かった」

藤城がふっと笑みを漏らした

「僕はずっと苦しかった
あいつが死んで、世間は喜んでいるのを見ているのが辛かった

あいつの父が悪いことをしていたのだから、喜ぶ人間がいるのはわかっている
でもあいつは、何も悪くないのに

あの父に、あの娘あり…みたいな雰囲気になってて、あいつの本心を誰も知らないのに…
好き勝手に解釈して、いなくなって良かった…みたいな発言ばかり飛び交ってた

僕はこの胸のもやもやを処理するやり方を知らない
誰かを怨んで、怨み続けて…他人に気持ちを押し込むしか知らなかったから」

藤城が頭を下げた

「それでお前の気持ちはすっきりしたのか?」

「全然…結局苦しいだけでした」

「いいんじゃねえの
俺も人を怨むし、殴りもする
苛々して蹴り飛ばすこともある」

「ああぁ…やりそうですよね」

「なんだと?」

「いえ…」

藤城が慌てて首を横に振った

クレアを失ったときの俺と似ているな

誰かを怨むことで、かろうじて『生』を感じる

毎日を生きようと、もがくことができた

ただひたすら、九条家を憎み

対抗する力が欲しくて、勉強した

人って…所詮、感情で動いている生物なんだな

ちっぽけでくだねえことばっかだけど

心のうちに秘めている力は、すげえんだ