江鳩くんは心底機嫌を悪そうに、眉をひそめて私を見ていた。

「何してた?」

声は優しかった。

でも、私はやっていた事を思い出して、涙が溢れた。

江鳩くんのお兄さんは、バイク事故で亡くなっていた。

私は…。

死のうとしてた?

「…っ、…っ。」

掴まれていない左の手の甲で、涙と冬の冷たい雨の雫を拭った。

「志緒ちゃん、おいで。」

二の腕を放して、私の手を掴む江鳩くん。

“泣くな”とは言わなかった。

逆に、手から伝わる温度は“泣いても良いよ”と言ってるみたいだった。