心の中で言い終わらない内に。

私は二の腕をぐいっと引っ張られる痛さを感じた。

でも、痛いより驚愕。

私はその腕に引っ張られるまま、立って、前に歩きだした。

青信号が点滅して、赤に変わるか変わらないかの内に、道に横断歩道を渡りきった。

私は涙も拭かず、顔を上に向けた。

空を見たんじゃない。

傘で隠れてるから見えないし。

私の二の腕を掴んでいる人は。

「…江鳩くん…。」