「どういうことですか?」
「俺はね…教えるだけじゃなく、“教えられる”仕事でもあると思うんだよ。…高校の頃さ、俺いっつも友達に数学の問題とか教えてって頼まれて、黒板使ったりして教えてたんだ。最初はさ、俺に何の得があるのかな、とか思ってて。教えるだけって損だよな、って。だけどな、俺結構いろんなことを『そういうもんだ』って、ちゃんと理解してないのに分かった気になってたんだよな。」
先生はそこで一息ついた。
「それを『どうしてここはこうなるの?』って指摘されたとき、はっとしたんだよ。でさ、それを一緒になって考えてるうちに、前よりももっとその問題が分かるようになってる、って気付いたんだ。教えるってことは…自分が本当は分かってなかったところをちゃーんと考え直す機会を手に入れるってことなんだなぁって、その時思ったんだ。」
「…」
俺は、何も言葉が見つからなかった。