チャイムが鳴って数学の教師が入ってくる。

みんな一斉にノートを広げていたけど、わたしだけは違う。


 数学なんかに似つかわない、分厚い魔術書。

表紙をめくると、背表紙と同じようなヘンな形をした文字が並び、その下に和訳されていた。


『ヴァンパイア魔術』


 その不可思議な言葉に頭をひねりながらも、手を休めなかった。

意外と色あせもなく、奇妙な文字も次の頁以降にはのっていないようだ。



 目次には、いろいろ書いてあった。

明日を見る方法、過去の修正の仕方、魔獣の召還・・・など。


よくわからないけれど、わたしがすごく目を惹かれたもの。


「あった……『恋の媚薬』…!!」


 すぐさまそのページを開く。

ざらつく紙の感触に戸惑いながらも、急いでめくる。


おかげでピッ、と右の人差し指の第一間接を紙で切ってしまった。


 じんわりと紅く濁るのを、仕方なしに舌で舐めとり応急処置をした。


「ええっと、なになに……?」


 みんなは教科書を覗き込んでいるのに、わたし一人、分厚い魔術書を読んでいた。